あれやこれや

一織推しの語るアイナナつらつら

ムビナナ特典小冊子コミック/アフターストーリー第2幕の双子と一織について(ふせったー再録)

特典小冊子で語られたIncomplete Rulerのデュエット歌唱について。

天は、自分たちが舞台上でこの曲を歌うと悲しむ人がいる、少なくとも和泉一織は傷つく、と判断している。
ここで、「嫌がる」とか「拒む」でなく「傷つく」という言葉を使うところ、「気持ちをわかってあげなきゃ」という言い方で説得するところに、天の情の深さが表れてるなと思います。
実のところ、九条天という人はわりと感情ベースの人なんですよね。

天の視点では、七瀬兄弟がデュオを歌うということは、陸の「IDOLiSH7のセンター」という立ち位置を揺るがすことなんですよね。血の繋がった双子であり、陸は天にかなりの執着があるし、天と同じ舞台に立つことを夢見ていた。その夢を公式の場で叶えさせることで、陸の心がIDOLiSH7から離れて、天に寄り添う――少なくともそういう懸念が生じたら、一織は傷つき悲しむだろう。いまの陸はIDOLiSH7のメンバーであり、最も大事にするべきは自分との絆ではなく、仲間との絆だ。だから、自分と歌うことで仲間との絆に影響を与えてはいけない。
天が言ってるのはそういうことかなと思います。

天の脳裏には、二部の合同練習で泣いた一織の姿があるのかもしれない。陸のため、IDOLiSH7のために必死な、生意気だけど繊細な子、というイメージが、一織に対してあるのかなと思います。かつての天の立場では陸がアイドルを続けることを認められなかったから一織とも対立したけど、陸やIDOLiSH7を自分たちと同等の一流アイドルと認めた今となっては、一織の行動原理は天にとって近しいものに見えるのかも。
例えば楽や龍之介が、自分より深いつながりのある誰かとデュエット曲を歌ったら自分はとても傷つく。だから一織もそうだろう。実際一織は陸を天への依存から引き剥がそうとしてきた存在だ。
天の考えはそんな感じかな。
天の視点ではおそらく、一織がプロデューサー業カミングアウトを経て立ち位置や精神性が変わってきていることまではわかっていないんでしょうしね。


それにしてもここでの陸の反論が秀逸というか、七瀬陸イズムすぎる……。
傷つく、に対して「そんなことないよ」と言い、「そんなことあるよ」と反論されると

「で……でも一織は、オレがスーパースターになるためにオレを幸せにするって言ってくれたよ!」

ですからね。天じゃなくても「なんて?」ですよこれ。
以前に「そういうニュアンスじゃない」って一織に言われてましたが、陸の中ではもう完全にこういうことなんだろうな。

ナチュラルに酷いのは、陸はここで「でも(つまり、一織が傷つくとしても)、陸がスーパースターになるために一織は陸を幸せにする」つまり「一織は陸が天とデュオを歌うことで傷つくかもしれないが、それが陸の望みなら叶えてくれる」って主張してるんですよね。
そして、それはある意味正解でもある。
そもそもこのふたりはかなり最初っからそういう関係なんですよね。一織は陸をスーパースターにする、そのためには陸からの「酷な要求」も飲むのが一織だし、そのことを陸は知っている。
でも陸は同時にここで「一織の望むスーパースターになる自分」に軸足をしっかり置いている。つまり、天とのデュエットを経ても、陸はIDOLiSH7のセンターである自分を揺るがすつもりはない。(もちろん、陸の望みや決意にかかわらず、陸のメンタルが揺らいでしまうことはあったわけですが)

そして5部を経て陸は一織を「オレのプロデューサー」と見ている、ここも天と陸の視点の違いかな……と思ったけど、そういえば陸がこの件を九条鷹匡に語った場面、天もそこにいましたね。天はどのくらいあの話を聞いていたのかなぁ。

「そんなわがままを通したら和泉一織が困るでしょう!? あの子陸より年下なのに」
こういうとこほんと、天はお兄ちゃん気質というか、庇護意識が強いというか……。すごくナチュラルに一織を「自分が守ってやる対象」に入れちゃってないですかねこの人。
今回、どうしたのかなってくらい一織の肩を持っててびっくりしちゃう。
それだけ天は今の仲間が大事で、楽や龍にそういうふうにされたら嫌だってことなんでしょうね。
そして、一織に対しても陸に向けるのと似たような「守る対象で、傷つけたくない、そのために自分が我慢する方がいい」というモードが発動してるような気もします。
もともと、陸を挟んだ対立さえなければ、天にとって一織は可愛がりたいタイプなんだろうなとも思います。


さて、実際に確認にいったところ、あっさり「構いませんよ」でしたね。ここもう快哉を叫んだ。それでこそ和泉一織Pだぜ。

「……。少し前ならそんなこと言わなかったでしょう」
「言いませんでした。今だから言えるんです。九条さんにとっては意地の悪い要求に聞こえてしまうかもしれませんが」
「……。少し考えさせて」

お互い頭が良いから、全部言い切らなくても通じちゃうんですよね。彼らのこういうとこ好きだな。

「七瀬さんが絶対にIDOLiSH7を辞めるわけがないってわかってるから言えるんです。彼らが幼い頃から切望した七瀬兄弟のデュオは、未来永劫誕生し得ないと確信してるから。だから構いませんと言えたんです。それが九条さんに伝わったんでしょうね」

このセリフ。優しい表情も含めて、好きだなぁ。
天は一織が傷つくと懸念したけれど、本当は、この件を巡って傷つくのは天のほうなんですよね。一織はそれを知っている。陸はもう、ゆるぎなくIDOLiSH7のセンターで、かつては天とのデュオを切望していたけれど、それはもう叶わないのだと知って、受け入れている。だからこそ「企画としてのデュエット」を天に持ちかけられるし、一織がそれを許容すると信じている。
陸がもう手の内にいないのだ、自分と離れてたって平気なのだと突きつけられるのは、天のほうなんです。
「あなたが想うほどあなたの弟さんはあなたに執着していないんですよ、あなたとは別の道を行くことを、とっくに受け入れているから、ステージであなたと歌ったって、今更揺らぎはしないんですよ」一織が言っているのはそういうことでしょう。天はずっと、陸を拒みながらも、陸の自分への執着は知っていて、それを当然のものとみなしてもいた。「ボクと歌うことは和泉一織を傷つけるよ」というのは、言ってしまえば無意識のマウントというか、天の傲慢の表れとも言えます。一織はそれを否定して、正反対のことを、これが事実ですよと突きつける。
それは天が陸に「そうあるべきだ」と諭したことなんだけど、諭すまでもなくそうだ、というのは、ブラコンの兄としてはひどく切ないことでもある。5部で三月にIDOLiSH7をやめないでと懇願した一織としても、わかりすぎるほどわかる心情でしょう。

以前は天と一織って明確な上下関係があったというか、社会的地位も経験値も天のほうが上、お説教や指導をする・される立場という感じでしたが、もはやそういう関係ではない、という話でもあるような気がします。
アイドルという土俵で並び立つというよりは、別のステージでそれぞれ一流になってます、という感じ。プロデューサーとしての一織が並び立った相手は九条鷹匡ですね。

弟離れしなきゃ、という話は6部でも天がしてたと思うんですが(弟離れした兄としてこの態度はどう?って一織に聞いてたのも面白かったな……)今回とうとうそれが実現したってことなんでしょうね。
ともに歌える喜びは、ふたりが別の人間で、それぞれ自立して自分の道を歩んでいるからこそ得られる。かつて共依存の関係にあった二人にとっては、寂しいことでもある。

そういう二人が、ステージで「一つになれなくても」「一人ではいられない」「一人ではいさせない」と歌う。なりゆきで実現した幻の一夜ではなく、自分たちで決めて、選んで、再び離れるためにひととき寄り添う。
切なくも美しい物語だなぁ……。

 

陸と一織のあいだに結ばれた強固な信頼、天の優しさと一織の優しさ、天と一織の関係性の変化……色々と伝わってくる、めちゃめちゃ最高のお話でした。アプリで読むのも楽しみだなぁ。