あれやこれや

一織推しの語るアイナナつらつら

とりとめもなく5部の一織について(Privatterより再録)

いや5部の一織すごくない?マジで。

ミュージカルゼロのゲネプロですけど、なんつうRTAをしてんのよこれ。肝が冷えます。デュエット曲はコール&レスポンスだというアイディアは陸のものですけど、それを今日ここでなら可能なものだと論旨をまとめ、九条鷹匡にプレゼンし、焚きつけたのは一織だった。ここで躓いたらこの日の成功はなかった。
TRIGGER、九条鷹匡、七瀬陸はもちろん、和泉一織もまたこの展開に欠かせないピースでした。その事実はおそらく、あの対話の場にいた3人だけしか知らないままだろうけれど。(鏡のゼロとしての陸の活躍はある程度周囲の知るところとなりますが、一織の貢献の詳細を知るものはそれに比べて少ないままでしょう)演出家としての九条鷹匡を最後に奮起させたのは、九条自身が自分に似た存在と見ていた一織の言葉だったと信じてます。お互いにシンパシーを感じる関係だからこそ、届く言葉だった。

そして陸がデュエットを成立させるアイディアを思い付き、九条のもとにやって来たのは、その前夜の一織との会話あってこそ。
天が陸を招待したがらない理由を、一織は、「ミュージカルの舞台で自分の身に危険があるかもしれないと天は考えている。自分が害される場面は絶対に陸に見せられないし、その心配をさせることすら避けたいから、理由は告げずに来るなとだけ言っている」のではないか、と予想している。(これ、実際ほぼ合っているんですよね。ただ、九条鷹匡がかつて現れた偽ゼロであり、精神状態が非常に不安定であるという情報が一織には無いので、具体的なリスクの見積もりは当然ながら天とは違ってくるだけで)

これより前、ドラマの撮影現場での陸との会話で、天の行動の理由について推測が成り立った時点では、一織はそれをこのまま陸に伝えることはできないと考えている。それが信憑性の高いリスクなら、天の共犯になって、陸の観劇を防ごう、それが自分の役割だすら考えます。だから陸に「一織は天とは違ってちゃんと自分を信頼してくれるし話してくれる」という信頼を寄せられたとき、咄嗟に頷くことができない。
どうしてそうなっちゃうかというと、自分が陸のメンタルコントロールをすると決めているからですよね。フレンズデー前に陸と交わした約束。
大衆の心をゆさぶる類い希な訴求力の持ち主でありながら、メンタルの不安定さと、それに左右されやすい病気を抱えているのが陸の弱点です。(メンタルの振れ幅が大きいことが彼の訴求力の原動力になっている面もあるのでしょうから、このあたりは鶏か卵かという話にもなりそうですが)その陸がスターであり続けられるように交わしたのが「あなたをコントロールさせてください」という「密約」だった。

13章で三月に秘密を開示したあと、これまでのことを一織は三月に語っています。その中で彼は陸の「コントロール」のやり方について、自分の厳選した情報だけを陸に見せることで陸の精神の安定をはかるのだと言っている。淡々と心無いような言葉を紡ぐ一織に対して、三月が内心でかなりドン引きしている様子が描写されます。
この時点では一織の、陸に対するある種の不誠実さが示されている。陸が友情を基盤とした誠実さを望んでいるのに対し、一織はビジネスパートナー、マネージャーとしての立ち位置で、結果的なメリットを優先する。
愛や友情があるのかという三月の疑問ももっともですが、一織がピンときている様子はない。読んでいて非常に心配になる部分でした。
でもこれは振り返ってみると一織の心境の変化を鮮やかに描くための描写なんだろうな。


テレビ局で九条鷹匡と対峙した陸は、桜春樹の遺作「Incomplete Ruler」の誠実な取り扱いを求めます。
ゼロのことがわからないと呻く九条に、ステージに立ってもいないくせになにが分かるのかと陸は言う。
ゼロだって不安にもなるし周囲の支えが嬉しかったはずだと陸は語り、一織を「オレのプロデューサー」と呼んで、一織がしてくれる「コントロール」に寄せる信頼を言葉にします。
任せていいよ、信じていいよってことだ、自分を確かに支えてくれている、その心強さがあるから、真っ逆さまに転落しそうな不安にも立ち向かえるのだと。

この場面では一織の心情はほぼ語られません。陸の名を呼び、その腕に触れるだけ。でも、この場面で陸がはっきりと一織への信頼を口にしたことが、一織の考えを変えさせたんでしょうね。

変化が示されるのが、ゲネプロ前夜のこと。パラシュートの紐をちゃんと結んでおくために、陸の信頼に応えることを選びます。
もし天が示唆した可能性が現実になり、陸を失ってしまったら。そう思うと恐ろしかったろうなと思います。でも、陸の信頼に誠実に応えないことで陸を決定的に失うことのほうがよりおそろしい。そういう風に考えたんじゃないかな。
丁寧に、誤解なく、不安を煽らないように、事実を伝える。陸の心が揺れるなら、傍にいて支える。支える自分がいると知らしめる。
視界を塞いで、安心できるものだけ見せるのではなく、視界をはっきりさせて、現実と対峙する勇気を与える。
ようやく「対等な信頼関係」に辿り着けたんだなと、感無量でした。

そして、一織の考え方、コントロールのありかたを変えたのは、九条との対峙で陸がはっきりと口にした一織への信頼だったけれど、その信頼を支えたのは、一織が13章でちゃんと告白したからなんじゃないかな。

「告白の刻」のあと、小鳥遊事務所でメンバー全員に秘密を告白する場面、環くんが「いおりんも自分の夢追っかけてたんじゃん」というようなことを言ってるところから、ただ「マネジメントに関わっていた」と事実を開示しただけじゃなく、それが一織のやりたいことなんだと伝わるように話してるんだと思うんですよね。
この場面、陸はさらっと受け入れて笑います。一織がIDOLiSH7を愛してることは知っているし、いままでと大して変わらないよ、みたいな顔をする。でも実際は、この告白があったことで、陸も一織の在り方に名を付けられた、「オレのプロデューサー」なのだと位置づけることが可能になったんだと思います。

解決ミステリーのラビTV3話で陸は一織に問うんですよね。どうして「スーパースターにする」と言ってくれたの、と。その時点での一織の答えはやや曖昧なもので、陸は少し腑に落ちない顔をしている。
このときの疑問も、13章で「一織が最初からマネージメントに関わっていた」「一織は他者を支え輝かせる存在でありたい人なのだ」と知ることで氷解したんじゃないかな。

撮影中の会話で、陸は一織を一度天になぞらえてから否定します。
陸にとって天の無償の愛情は、もちろん嬉しいものではあるんだけど、同時に自分の弱さや無力さを思い知らされる烙印でもあるんですよね。陸は自分の人生を生きるために苦しくたっていいと思っているけれど、天は陸が苦しむことそれ自体が苦痛になる。そして天の愛し方は陸を守るために自分の身を削るものであるがゆえに、天に守られることが陸にとっては苦痛。陸が疾患という爆弾を抱えている限り、天の安心と陸の夢は両立し得ない。

陸と一織は望みが一致する。陸が誰より高く飛ぶこと。輝かしいスターになること。目指すのはその場所で、そのために苦しみを引き受けたっていいと決意しているのも一緒。一緒なんだと心の底から信じられる。二人分の夢のために飛んでいて、二人分の夢のためにその背を支えている。片方が寄りかかるだけの関係じゃなくて、与え合う関係なんだよね。そうだとようやく信じられるようになった。コントロールしてよ、と陸が一織にまっすぐ求められるのは、申し訳なさをもう感じなくていいからだ。
二人とも、誰かに必要とされたかったし、一人では夢を叶えることができなかった。自分の夢を叶えるピースである人が、誰かにとってのそのピースでありたいと願っている人だった。
まさに運命的な一対なんだと思います。
そして、自分たちがそういう関係だということを、陸がようやく知ることができたから、彼らの絆は強固になった。

そして、一見噛み合わないもののように見えていた「終わり」への意識の齟齬も、5部の終盤で美しく収束している。

全員が集まっての歌番組での収録、一織はモノローグでこう言います。「ないものねだりの子供だっていい。IDOLiSH7を終わらせたりしない。」

「終わりを見ていない、見ようとしない、そもそも終わりというものについて体感で知らない」というのが、一織の危うさとしてしばしば語られてきました。自分を信じ、自分たちを信じ、仲間の変化を受け入れず、全員がずっと同じものを見ていられるはずだと無邪気に信じている、未熟で視野の狭い子供なのだと。
でもたぶんそうじゃないんですよね。和泉一織という人は、アイドルとは終わるものだと知っていて、だからこそ、自分の役割は、終わらせないために人智を尽くすことだと決めている。
転落なんてしないと盲目的に信じるのではなく、転落したって終わらせてやるものかと、パラシュートを用意しておく。
「ないものねだり」という言葉を使う彼は、永遠はないって本当は知ってるんですよ。知っていて、それでも、永遠を望もうとする。終わりのための心の準備をするんじゃなく、終わらせないためにあがき続ける。
彼は自分を守る気がちっともないんですよね。IDOLiSH7と心中するから、IDOLiSH7を失った先のことを考える必要がないから、失わないための未来だけをずっと見ている。
終わりがいつか来ると知っている。永遠にないと知っている。その終わりが「今」だと、全員が受け入れたなら、その瞬間に終わりは訪れるんでしょう。でも、それは「今」じゃないかもしれない、まだどこかに道があるかもしれない、そう信じて必死になることで見つかる希望もある。実際に彼らはそうやってノースメイアまでナギを取り戻しに行って、IDOLiSH7であり続けた。
これからも、終わらせないための方策を、最後の最後まで探して、あがいて、一瞬でも長く生き延びていく。それが一織の選んだ道なんでしょう。

小鳥遊事務所にて、社長との面談に臨む前に、陸と一織は言葉を交わします。陸が口にした不安について問いかけ、一織が告げる言葉。
「誰と一緒に前人未踏の空を飛んでいると思っているんですか。パラシュートくらい用意しています」。
死に近い場所で生きてきた陸は、終わりの存在をずっと意識し続けている。終わりがあるからこそ、何気ない日々の愛おしさを感じて生きていくことができる。
でも、すべての終わりだと思っていたものが一度の着地にすぎないなら、なにもかも失ったと思ってもまた歩き出せると信じていられるなら。
陸にとっても一織のこの言葉が支えになったというのは、面談で口にする「パラシュートはもう使った?」というセリフからもわかる。

4部で陸は桜春樹と対話します。幸せとは何か。すべてを手に入れたとして、その先に何を望むのか。あるいは、すべてを失ったときに誰が傍にいて、何を望むのか。
全て失ったときにも仲間はきっといる。そして望むのは一緒に歌うことだと陸は言いました。
パラシュートくらいあるという一織の言葉は、陸のこの信頼や願いの肯定だったのだと思います。

永遠に同じものではいられない、始まったものには終わりがある。それは正しい。
でも、どんなに変わっても、得たものを失っても、その先へまた歩き出す限り終わりはない。それも正しいんです。


一織が三月に対し、マネジメントの秘密を隠したがっていたのも、告白しようと決意したのも、IDOLiSH7の永遠を願うからだった。
ライブの場面で陸に向けられる、長生きして、ずっとアイドルでいて、終わらないでというファンの悲痛な願い。
かつて聞いた、100年生きるより100年分歌いたいという陸の願い。
一織はそのどちらも叶えたい。IDOLiSH7の存続を優先して陸が陸らしく在ることを阻害するのも、陸という底知れない存在を野放しにしてIDOLiSH7の崩壊を招くのも、どちらも本末転倒です。
秘密の開示は三月の怒りを招き、そのようなIDOLiSH7の在り方への不満となり、グループ崩壊に至るかもしれない。
けれど逆に、秘密を抱え続ける不誠実さや、隠れて行うマネジメントの限界こそが、IDOLiSH7の崩壊につながるのかもしれない。
きっかけは紡の求めだったけれど、秘密があるだろうと追い詰められたり、秘密を持っていることがトラブルを招くなどの、「言わざるを得ない事態」からの打ち明け話ではなく、まだ大きな問題が起きないうちに、自分から勇気を出して打ち明けるという流れは、これまでのアイドリッシュセブンのストーリーとは少し異なるもので、彼らの成長を感じさせてくれるものだなと思います。(これ、環くんの将来への悩みも同じだよね。いま困ってるわけじゃない、問題なく、仲良くやれている、でも自ら未来のために変化に挑もうとしている)


三月への告白シーンの素晴らしさについては当時語り倒したからある程度割愛しますけど……。

自分の夢、願いについて、過去に三月にわかってもらえなかった、否定されたことが悲しかったということ。
もう一度否定されるのが怖くて、秘密にすることしかできなかったんだということ。
三月が大好きで、嫌われたくないと思っていること、それでもどうしても、夢を追わずにいられないこと。
三月が自分に向けるコンプレックス、嫉妬を知っていて、辛かったこと。
大好きな兄に秘密を持ったまま、自分のこの行動や判断は兄には不快だろうと思いながらマネジメントを続けることは苦しくて、ずっと罪悪感を抱え続けていたということ。
叶うなら兄に自分の能力や判断や功績を認めて貰いたかったということ。
友達がいて、誰もに好かれて、真っ直ぐ目指す夢があって、「一生懸命」な姿で他者をも動かせる、そんな兄が羨ましくてたまらなかった。兄を支えたいという願いは否定されて、なんだってこなせるけど楽しさはなくて、灰色の日々が苦しくて、でも苦しいと言えるようなはっきりとした何かがあるわけじゃない、出来が良くて恵まれた、兄にとってみれば理想そのものであるだろう自分を持て余し続けていたんだと。

性格上、兄を責めることのできない一織の、嗚咽混じりの言葉の端々に見え隠れする、彼のこれまでの辛さがね……切なくて。
きっとずっと誰にも言えなかったんだろうなぁ。

一織以外のIDOLiSH7のメンバーはみんな、苦しい過去の持ち主なんですよね。愛人の子であり親への憎しみを抱えていた大和。アイドルになりたいと切望しながら挫折し続けた三月。父に暴力をふるわれ、母を亡くし、妹と生き別れた環。支配的な父によって押し潰され、敬愛する叔父を亡くした壮五。腹違いの兄に疎まれ、命の危険すらあったナギ。病気を抱え、愛する兄に去られた陸……。
そんなメンバーに囲まれた、両親も兄も優しく、経済不安もなく、自身も才能に満ちた17歳は、自分の苦しさを誰かのせいになんてできないんですよ。
一織は、苦しい理由を自分自身にしか見つけられない。他者に甘えられない、優しくできない、他者にとって魅力的でないのは、自分の性質に問題がある。そして自分がそういう性質であることを説明しうる外的要因もなにひとつない。
もちろん仲間たちだって自分の苦しさを誰かのせいにしたわけじゃない。でも過去を知った他者が、苦しかったね、辛かったね、あなたのその苦しみがあなたのその行動につながったんだねと、慰めたり、共感したり、免責してやることはできます。
一織にはそういう余地が、ほとんどない。

6周年の特ストで、熊のぬいぐるみを抱えて笑う写真を見ながら、幼い自分は無邪気に笑っているなと、一織はふと口にする。どうして今はそうではないのと天が問うけれど、その答えは出されないままなんですよね。
わかりやすい要因はなにひとつなくて、ただ、一織が求めたもの、好きなもの、なりたかったものと、一織本人の容姿や性質がズレていた。たぶん、ただそれだけ。
そういう子だ、ということも、ほとんど語られずにここまできた。
自分を語るに至っても、一織が自分の性質に対して抱えているコンプレックスに話題がフォーカスされることはなく、夢を語るなかでほんの少し、こぼれ落ちるだけ……。

追い詰められなかったということは、爆発できなかったということでもあります。
一織が自ら進んで打ち明けるという形になったのは、彼らの成長を感じるという点では嬉しいんですけど、外部からの暴露でなかっただけに、感情的に責められる場面はない。だから叩き返すような反発もうまれない。ただただ葛藤し、罪悪感に身を縮め、自分の不誠実を責め、許しを請い、三月からの「もういいよ」と「ありがとう」「よかった」に落ち着く打ち明け話だった……というのは、とても一織らしいし、そういう彼が好きなんだけど、でも、ちょっぴり切ない。
「だってあなたが」と感情にまかせて口走ることすらできなかった。
それを言うことも一織にとってはカタルシスより苦しみをもたらしそうなので、言わずに済んで良かったのかもしれない。でも言わせてあげたかった気もする……。
結局いまだにまともな兄弟喧嘩になってないのだもの。
せめて将来、マネージメント方針をめぐってめっちゃやり合えるようになってたらいいな……。


しかし面白いのは、ミュージカル「ゼロ」を成功させ、5部を大団円に導く終盤の怒濤の展開にあたって、遠慮や情緒がない一織の性質がかなり活躍しているところ。天のほとんど泣き落としのような懇願に耳を貸さず、楽と龍をがっつり巻き込み、一方で理を言いくるめてIncomplete Rulerの楽譜の謎を開示させる。直面している問題を整理し、方針決定を突きつける。
他者の痛みに怯まず、問題に向き合わせようとする強さは、間違いなく和泉一織の美点だと思います。本人がなりたがった存在とは、もしかしたら違うかもしれないけれど。


次の課題としてはひとまず環くん問題ですね。
学校で話していたときはひたすらに否定していたけれど、6部でどういう態度を取るのか。IDOLiSH7のプロデューサーであると開示したことで、IDOLiSH7の未来と環くんの未来のどちらにもプラスになる、具体的な道筋を相談できるようになったらいいなと願うばかりです。


うーん、書いても書いても書き足りないな……。
一織が好きだなあ。幸せになってほしいと思います。

そうこう言ってるうちに6部明日じゃん。信じらんない!楽しみです。